今月のテーマは、ベートーヴェンの交響曲《田園》。
春から初夏へと移り変わるこの時期に、
自然の風景や空気感、心の動きまでを表現してくれるような音楽。
その全5楽章からインスピレーションを得て、ブーケを束ねました。
美しさのピークを迎えたシャクヤクたち

今回の主役は、シャクヤク。
つぼみではなく、「開きかけ〜咲きかけ」が一番美しいと感じるこの季節に、
それぞれがちょうど良いタイミングで花開いた、絶妙な咲き具合の子たちを集めました。
ふわりとほどけるような花びら、やわらかく光を受ける質感。
開き具合のグラデーションが生む表情の違いが、ブーケ全体に奥行きを与えてくれます。
5つの楽章をブーケにのせて

花材は、田園交響曲の5つの楽章からそれぞれエッセンスを抽出して構成しました。
たとえば──
第1楽章の「田舎に到着した喜び」からは、穏やかで静かな高揚感。
第2楽章の「小川のほとりの情景」からは、流れるようなラインや葉の動き。
第3楽章では、人のぬくもりや集いのあたたかさを。
第4楽章の「雷雨」では、少しだけスパイスの効いた動きを。
そして第5楽章、「嵐のあとの喜びと感謝」で、全体を穏やかに調和させました。
完成したブーケは、一本ずつの花の個性を尊重しながらも、全体としてひとつの“風景”を描くような仕上がりに。
今月のレッスンで大切にしたこと

今回のレッスンでは、
「空間に風を通す」こと、
「感覚を信じて手を動かす」ことを大切にしました。
技術的には、スパイラルの組み方や、花材の高低差・角度など、細かなポイントがたくさんありましたが、
大事なのは、“整えすぎずに整える”という感覚。
つい詰め込んでしまいがちなときも、
ひと呼吸おいて、空間を見渡してみると、ふっと緩む。
そのとき初めて、
「余白がある方が、むしろスムーズになる」
「無意識に力が入っていた」
そんな声が、生徒さんからも自然とこぼれてきました。
生徒さんの声から

・「最初は難しそうだったけど、やってみたら意外とできた」
・「花に触れているうちに、気持ちが軽くなってきた」
・「自分にも“感覚”があったんだと気づいた」
・「こうやって、自分を整える時間って大事ですね」
花と向き合うことで、心の奥の静かな部分に触れる。
そんな瞬間が、今月もたくさんありました。
最後に

自然の風景を音で描いた《田園》のように、
花で描く風景にも、ことばにならない気配や感情が宿っていました。
「自然体でいることの心地よさ」
「人と人とのあたたかさ」
「美しさをそのまま受け取る感覚」
そんなエッセンスが、それぞれのブーケにふわりと込められていた気がします。
来月もまた、どんな季節の風が吹くか楽しみにしています。