数年前、プライベートレッスンで「不思議の国のアリス」をテーマに、アレンジメントを作ったことがありました。
その際に観た、英国ロイヤルバレエの舞台映像。
カラフルな衣装や、帽子屋たちのタップダンス、ユーモアに満ちた演出に衝撃を受け、
いつかこのバレエを観てみたいと思ったことを、今でも覚えています。
新国立劇場でついに夢が実現

その夢が叶い、先日、新国立劇場で上演されたバレエ•不思議の国のアリスを観てきました。
英国ロイヤルバレエから正式ライセンスを受けた、完全バージョンのこの舞台は、
想像を超えた、視覚と感性のアトラクションのようでした。
幻想の入り口で心をつかまれた瞬間
物語の始まりは、現実世界のガーデンパーティー。
ここまでは、見慣れたバレエの舞台風景です。
それが、舞台の中央にに現れた穴から煙が立ち込めた瞬間
現実の空気を変え、観る者をこれから繰り広げられる夢の世界へと誘います。
ブーケのイメージに取り組む時と同じく、物語の始まりの予感にワクワクました。
アートのような舞台美術と色彩のセンス
アリスが穴に入って落ちていくシーンでは、映像と音楽の効果で、観客の私たちも一緒に落ちていく臨場感を味わえました。
その後のアリスの身体が大きくなったり、小さくなったりするシーンや、涙の池のシーンは
映像と舞台の融合によって違和感なく描かれていて、思わず感嘆!
映像の迫力に引けを取らない、アリスの全身を使った表現も、健気でとにかく可愛くって、子供の頃に本を読んだ時と同じ感情を思い出しました。
空から舞い降りるトランプの映像や、床に映る「The Mad Tea Party」の本のページ、
ポップでアートな背景は、まるで動くインスタレーションのようで、とっても刺激的でした。
チェシャ猫に宿る、アナログとチームワークの美
チェシャ猫の登場は、まさに圧巻。
中国旧正月に登場する龍舞のように、大きな猫を複数人で動かしている構造。
そのアナログさがむしろ新鮮で、動きの繊細さやしなやかさには、
チーム全体の感性と呼吸が反映されているように感じました。
花を束ねるときの、目に見えない調和とも、どこか似ています。
衣装やダンスに感じた遊び心と伝統の融合
トランプ兵のチュチュが、上から見るとスートのマークになっていたり、
帽子屋の衣装が「チャーリーとチョコレート工場」のウィリーような雰囲気だったりと、
なんとなくイギリスのユーモアとセンスが詰まった衣装演出にも心をくすぐられました。
また、花のワルツの場面では、コールドバレエの柔らかな動きと、
ポップキャンディーのような色彩の衣装が重なり、
伝統と遊び心の絶妙なバランスに魅了されました。

現代とつながる余韻のラストシーン
物語のラストでは、現代風のキャロルが、
アリスとジャックのツーショット写真をスマホで撮るという演出が。
一瞬、「ん?」と思いながらも、
その意外性がまさに「不思議の国」らしくて、素敵な余韻を残してくれました。
夢と現実、過去と今をつなぐようなシーンで、時空を超える面白さを感じました。
おわりに
今回は、純粋に舞台を味わいたい気持ちで観に行ったのですが、
結果的に、たくさんのインスピレーションを受け取る時間になりました。
視覚・感性・物語性。
すべてが重なり合って生まれる表現の豊かさに触れた一日。
また一つ、私の中の「美意識の引き出し」が増えた気がします。